重力に対抗して立ち回るには、特定の筋肉のパワーアップではなくて、バランス調整能力です。
難しのは、抗重力の力とバランスの両立
前回、
・抗重力筋は、場面によって主役が入れ替わる。
・センサー情報が重力に逆らう筋力の程度を決める。 と申しました。
これらのことは、引き出したい抗重力筋は、どんな体重のかけ方が効果的なのかという場面作りの工夫の指針になると思います。(今後、具体的にしてゆきます)

今回、もう一つの大切な能力を説明しないと、さまざまな練習アイディアが結局、成果につながらないことになってしまいます。
それは、「動きながら姿勢を維持安定させること」つまり、バランス能力です。
身体がフラフラしていたら、重力に対抗する力があっても定まらないですよね。移動のための「歩き」にしても、立って手で何か操作するにしてもできませんよね。

バランスの具体例をあげてみましょう。
歩行の際の「蹴り出し」は、ふくらはぎで床を押して推進力を得ています。足指や足底筋で床をつかみ、蹴り出しの効率を上げます。
これで、前には進めるにですが、左右のブレに対応するために下腿の左右の筋肉(後脛骨筋/腓骨筋)が調整します。

人間は、2本足で行動しますから、四つ足動物より、相当高度なバランス調整能力があります。
本来、手と目を使いながら(スマホ操作など)階段の上り下りだできるなんてすご過ぎるのです!
練習プランを立てるときに、
①重力に対抗する力を主に引き出したい。
②重力に対抗しながらバランスや動く方向などのバリエーションを増やしたい。
など、重きをどこに置くかで、練習内容にメリハリをつけたいですね。
足指や下腿筋の踏ん張りが下肢バランスの基礎
歩行の各動作ごとに筋肉チームがある

抗重力とはいっても、何かよくわかりませんよね。
重力に対抗している筋肉ではあまり説明にはなっていないのです。
図は、歩行動作の一連の流れを筋肉の働きを示した図です。
大雑把にカーブが盛り上がっている時に、筋肉が収縮して頑張っていると思ってください。
「踵が地面に」〜「足を前に」と動作が変化する時に、働く筋肉に違いが出ていますね。(本当は、特定の筋肉が働くから動作が変化するのです)
もう一つ重要な点は、「筋肉はチームで働いている」ということです。
①踵が地面に着く(これから体重がかかる)。薄い赤
②体重が片足に乗って支えていく。 薄い青
③進んで行くための蹴り出し。 薄いピンク
④空中で足を前に出す。 薄い緑
①〜④それぞれに、協力する筋肉たちが分かれていて、チームを組み、その中で役割分担をしているのです。
同じ抗重力筋でも「主に重力に対抗する力」「重力に対抗しながらバランスをとる」にガンバッテいます。
足指や足底筋、下腿筋は「膝下安定」に重要
膝関節に痛みがある方には、ここの理解が特に大切です。

・下腿の両脇にある後脛骨筋や腓骨筋が、足底から上に持ち上げて、足のアーチを作る準備をします。
・アーチによって、足指/足底筋が働きやすくなって、体重が乗った時に床に反応しやすくなります。
・蹴り出しが安定して行われるように、下腿の「横バランス」を下腿左右の筋肉が受け持ちます。
足底・下腿のバランス筋は、お互いを補完しながら、膝下の安定を担っています。
足指や下腿筋の踏ん張りが下腿バランスの基礎

膝下の安定は、とても重要です。車のタイヤやサスペンションがヘタっていると真っ直ぐ進まなかったりハンドルが効かなかったりで危険です。
足裏や下腿筋が、地面の状態に合わせて立ち回ることで、膝や股関節・体幹が安定的に動けるのです。
膝関節や股関節・腰の強化を試みる時に、膝下能力を関連づけると良いと思います。
年齢がいくほど、バランスに足指や下腿筋でなく、上体で対応する傾向を感じています。統計上は、年齢とともに下肢筋から衰えていくのですが、そのことと関係があると思います。
バランスを下肢の筋肉でとらず、上体でとるので「下肢が衰える」と言えるのかもしれません。
姿勢の矯正は、衰え対策になる?
「正しい姿勢」と紹介される時は、一般的に立位や坐位で「静止」しています。
止まっている「姿勢」は、動作の中の1シーンと思ってください。
そこに多くの意味はありません。1シーンは、意識で修正可能です。
姿勢は、約400個の随意筋の総合調整で、さまざまの関節の相互関係で成り立っています。
何か、カラダに不具合を感じる時、痛くなる原因は、痛い場所ではないかもしれません。

足底・下肢筋をあまり使わない扁平足の方は、足部の内側に崩れ、下肢が内側に傾き、いわゆるX脚となり、数年後に膝の外側に痛みが出ます。
足部が膝に影響した例です。
また、股関節の不使用が膝や腰に影響します。
胸郭の「硬さ」は、股関節や腰・肩に影響します。
静止している「姿勢評価」より、「動作上の評価」を優先してください。ヒントは、問題部位の近くの関節の不使用や不具合かもしれません。
まとめ
- 抗重力の力とバランスの両方が大切です。
- 抗重力筋は、各動作ごとに筋肉チームで対処し、動作ごとに変化していく。
- 下肢のバランスの基礎は、足指や下腿筋の踏ん張り。
- 静的姿勢の評価より、動的に捉えることを優先しましょう。